「木曽漆器」は長野県塩尻市の宿場町、
贅川(にえかわ)宿と奈良井(ならい)宿の間に位置する木曽平沢とその周辺で製造される漆器。
木曽平沢では、木曽ヒノキをはじめとする豊かな森林資源と、漆器作りに適した高地の冷涼な気候を生かし、
17世紀初頭より生活に根ざした漆器づくりが始まった。
江戸時代には五街道の一つ中山道の宿場町として栄え、「木曽漆器」が全国で知られるようになった。
職人たちは伝統を継承しながらも、新しいスタイルの木曽漆器に挑戦している。
樹齢300年以上の天然の木曽ヒノキやさわら、あすなろなど針葉樹が林立している赤沢美林をはじめ、昔から豊かな森林資源に恵まれていた木曽平沢。冬が寒いためにヒノキの生育は遅いが、目が細かく締まった良木に成長する。
Kiso-Hirasawa has long been blessed with precious forest resources, including Akazawa-Birin where Japanese Cypress trees such as Kiso-Hinoki, Sawara, and Asunaro are over 300 years old. Hinoki in particular grows slowly due to the cold climate but forms beautiful wood with tight annual rings.
切り出された木は、予備乾燥させたあと製材所に運ばれる。十分に乾燥させ、原木の皮をむき、専用の製材機械で木を挽く。
Felled trees are cut into logs, dried out, and transported to a sawmill. There, the logs are processed using specialized machines to remove the bark, then cut into lumber.
木目に沿って木を削り、手触り、つかみやすさを考えて箸の形を成形していく。
Following the wood along the grain, the chopsticks are shaped for ease of handling and grip.
日本では9,000年前から漆を塗料として使用してきた。6月から10月の間、漆掻き職人が漆の木から生漆を採取。1本の木から漆が取れるのは180から200gのみ。
Urushi sap has been used as lacquer for 9,000 years. Between June and October, urushi scraper artisans scratch the trees to collect raw sap. A single tree yields only about 200 grams.
採取したばかりの生漆は水分を含んでいるため、フネという容器に入れ、日光の下でゆっくりかき混ぜながら精製する。
Collected raw sap contains excess moisture. Using a container called fune, purification involves slowly stirring the sap in sunlight.
木地に生漆を重ね塗りし、乾燥させる。
Fresh lacquer is then applied to the wood and cured in successive layers.
中山道に沿って建物が雁行(がんこう)して建ち並ぶのが特徴的な木曽平沢の町並み。
江戸時代の出梁造(だしばりづくり)をはじめ、大正時代から戦前、戦後に建てられた各時代の特徴的な建物が併存している。
漆器職人の住まいと作業場が敷地内に存在しており、主屋の奥の土蔵を作業場として使用している家が多い。
蔵に抜けるための通路もしくは「通り土間」が、通りの東西どちら側の家も南側に作られている。
伝統工芸の職人町として平成18年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
漆工房「未空うるし工芸」の漆職人、岩原裕右さんは20代の時にシルバーの彫金や革細工を学んだ。そして、実家の漆工房で修行を積み、2014年にブランド「jaCHRO(じゃっくろ)」をスタート。今までの経験を生かし、シルバーや革に漆を加工した商品を製作している。革製のコインケースや財布に漆を加工した「jaCHRO Leather」シリーズは、皮に塗った漆が硬化して割れてしまわないように特殊な技法で加工。また、木曽漆器の代表的な手法「堆朱塗り」を施したエレキギターを製作したり、日本の若き匠を応援する「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」の長野県代表として選出され、「堆朱塗り」「木曽春慶塗り」の技術を駆使した、今までにないユニークな木の名刺を発表。アーティスト的な活躍が注目されているが、「自分はあくまでも漆職人」と、匠として、より高みを目指す。工房見学希望者は、電話かホームページの問い合わせフォームから確認を。
Misora is Yusuke Iwahara’s studio. He creates new types of Urushi products.
長野県塩尻市木曽平沢1905-7
0264-34-2644
公式ホームページ
木曽漆器の製作工程やまつわる道具、作品、資料を展示。人間国宝の作品も並ぶ。
Museum displays Kiso-Shikki production methods, tools, and references related to it; as well as art works by living National Treasure Artisans.
長野県塩尻市木曽平沢2324-150
0264-34-1140
塩尻市公式ホームページ
前身の手塚瀧三郎商店の創業が明治40年。当時は店舗の裏の蔵で、約50人の職人たちが木地から仕上げまで行っていたという。現在は小物から家具まで幅広く展開。現代人のニーズに合わせた、新しいタイプの漆器を定期的にリリースしている。「キッチンうるし」は、信州大学と長野県の工業試験場と5年の月日をかけて共同開発したシリーズだ。「食洗機で洗える漆器」を目指し、木地に直接塗料をしみこませてコーティングし、その上から漆を塗り重ねている。特殊塗料でコーティングすることで、木に水分が染み込まない仕組みだ。加えて、最新作はスタッキングできる多機能の椀と皿のセットや、できる限り木地を薄く軽くしたコーヒーカップなど、漆器のさまざまな可能性を追求。家具はすべて自社で製作しているので、細かいサイズ指定などができるのがうれしい。
Produces the modern style urushi tableware “Kitchen Urushi” series that is dishwasher safe.
長野県塩尻市木曽平沢1721
0264-34-2008
公式ホームページ
ここは「漆器屋」ではなく「塗師(ぬし)屋」。売っているのは漆を木地に塗ったり、細工を施す木曽の伝統技術だ。7代目の宮原義宗さんは漆の塗りの可能性を考え、新たなニーズを求めて、木以外の素材に塗りも行なっている。たとえば、模様が美しい携帯電話のプラスチックのケースは、最近のヒット商品だ。ワインクーラーやボールペンなど依頼されて作るものも多い。高い技術と知識を身につけるために、名古屋城本丸御殿や社寺、山車などの文化財の修復にも関わる。「他の産地の職人たちと仕事をしているからこそ、木曽漆器の技術は高いと自信をもっていえる」と宮原さんは話す。
Urushi artisans Masataka Miyahara and Yoshimune Miyahara produce their original works and repair damaged urushi products.
長野県塩尻市木曽平沢1685-4
0264-34-2248
公式ホームページ
明治26年創業の「山サ石本漆器店」の初代は「越前衆」と呼ばれた福井県の漆掻き職人で、“漆の神様”と呼ばれるほど、漆について詳しかったとか。そういった経緯から、越前で作られた漆器も多く扱っている。現在の店主、石本幸一郎さんは4代目。レストランや高級料亭、ホテル、旅館向けのテーブルや盆、食器などが商品の中心だ。10年前から、塩尻市内のワイナリーのワイン樽を再利用したオリジナル商品を製作。漆を塗った皿や一輪挿しは湾曲したフォルムを、テーブルは樽の上下の部分を生かし、ほかにはないデザインに仕上げている。なかでも一輪挿しは花瓶の部分を錫(すず)にしたり、越前和紙を装飾に使用したりと、毎年新作を発表。それを楽しみにしているファンがいるほどだ。漆家具の修理専門の職人がいるため、箪笥やテーブルでも修繕が可能だ。
Majorly makes furniture and fittings. Also creates urushi coated flower vases made from Shiojiri city wineries wine casks.
長野県塩尻市木曽平沢1738
0264-34-2033
表の店舗で漆器を販売し、裏の蔵では職人たちが漆器を製造するという昔ながらのスタイルを継承。江戸時代から約100年続く、「伊藤寛司商店」の代表作は、落ち着いた朱色が美しい「古代あかね塗」だ。「50年ほど前に、祖父と塗り師の叔父が試行錯誤して色を考えたそうです」と4代目の伊藤寛茂さん。仕上げに地元松本で採れた漆を塗るのが特徴。使い込めば込むほど、暗い朱色から明るい朱色へと変化し、艶が増していくのだとか。ここでは生漆を自分のところで「天日手黒目精製(生漆を天日に当てながら長い時間かき混ぜることで、水分を取り除いて酸化させ黒く精製する)」しており、漆の質に徹底的にこだわっている。最新作は「和塗(わと)」シリーズ。100%国産漆と木地のみでできており、品のある色合いと持ったときの手触りの良さがほかにはない風格を醸し出している。製造作業は見学可。
Art works with the Kodai-Akane-Nuri technique, which is an ancient matte-finish vermilion, and others made only with urushi that was produced in Japan.
長野県塩尻市木曽平沢1607
0264-34-2034
公式ホームページ
創業明治45年。道に面した店舗に入ると、季節を意識した花などをあしらったディスプレイに心奪われる。どこかモダンな器は、料理研究家と一緒に機能性や盛り付けの美しさを形にしたシリーズだ。店舗の裏には蔵を改装したギャラリーがあり、こちらに並べられているのは、伝統的な技術を駆使した、重箱や盆、茶器などさまざまな漆器。豪華な蒔絵の商品も多い。どちらも生活の中にある「器」を意識してスタイリングされているため、見た人が「こんな使い方があるのね」と気づかされる仕組みだ。「漆器はハレの席でも日常使いでも使えます。日本料理に限らず、洋食でも合わせられますし、ガラスや陶磁器と一緒でもしっくりくる。ルールに縛られず、いろんな用途に使って欲しいですね」と若女将の荻村理恵さん。蒔絵職人が常駐しており、希望者は蒔絵体験もできる。事前に問い合わせを。
This studio creates urushiware that suits a modern lifestyle. Also collaborates with culinary researchers and Japanese restaurants to create products.
長野県塩尻市木曽平沢1766
0264-34-2412
公式ホームページ
漆とガラスを組み合わせた「漆硝子(うるしガラス)」の先駆者的存在。人気シリーズ“hyakushiki(百色)”は漆らしさがありながらも、カラフルで温かでどこかポップ。食卓に並ぶとパッと華やかになり、料理も映えると評判だ。職人が手仕事でひとつひとつガラスに漆で色をつけ、模様を描いていく。複数のデザイナーにデザインを発注しているため、作風もバラエティ豊か。色の組み合わせやデザインのどこかに「和」が感じられるのが、ひとつのこだわりだ。「従来の漆器は、金属のカトラリーは傷がつくので御法度でした。このシリーズは外側に漆を塗っているため使うことができるんです」と塗師の小坂智恵さん。職人たちの「もっと漆器を手軽に使って欲しい」という思いが結実したのがこのシリーズなのだ。タイミングが合えば塗りの作業を見学できるそうなので、気軽に声をかけてみて。
These artisans have a specialized technique to apply urushi to a glass tableware series called Hyaku-Shiki. The technique produces a beautiful color gradation.
長野県塩尻市木曽平沢1817-1
0264-34-2245
公式ホームページ
1Fは木曽漆器やヒノキの木工品を、2Fは漆器作家の作品を展示販売。漆器製作体験もできる(予約制)。
Produces Kiso-Shikki and Kiso-Hinoki woodworks on the first floor and sells famous Urushi artisans’ artworks on the second floor. Reservations to take an urushi lesson also available.
長野県塩尻市木曽平沢2272-7
0264-34-3888
公式ホームページ
春と秋に行われる「大漆器市」。約80店舗もの店が建ち並び、 職人が精魂込めて作った漆器製品や稀少な蔵出しものが店頭に並ぶ。
Dai-Shikki-Ichi is a large Japanese lacquerware festival in the spring and fall. About eighty temporary studios sell their products, of which include very rare or old Urushi-ware.
竹内義浩さんは、長野県で唯一の漆掻き職人だ。香川県の漆研究所で漆芸を学び、木曽漆器の製造会社で漆器職人として働いた後、工房を長野県駒ヶ根市に構えた。漆芸を追求すればするほど、「漆のことをより深く知りたい」と、岩手県二戸市浄法寺町で漆掻きの研修を受けた。現在、漆器の制作や修繕の仕事に加え、漆掻き(うるしかき)、天日(てんぴ)黒目(くろめ)精製も自ら行う。2004年から漆の木の植樹を始めたが、木が育つまで15年余かかり、シカやサル等の獣害により枯れてしまうことも多かった。竹内さんは、日々森や林に出向き漆の木を見つけては、その敷地主を探すという気の遠くなる作業も行なっている。運良く地主が見つかれば、承諾を得て漆を掻く。
「漆掻き」とは、漆の木の幹から漆液を採る作業。幹に一文字に傷をつけた際に、樹体がその傷を治すために漆を分泌する。それが漆液だ。漆掻きのシーズンは6月から11月初旬ごろ。漆の木の幹の一番手前の新しい年輪を専用のカマとカンナで傷をつけて、ヘラで樹液を掻き採る。それ以上深いところに傷をつけると木がダメージを受けてしまうんです。また、根から吸い上げる水の通り道、道管を幹に残してあげないと木が枯れてしまう。掻くにも技術がいるんですね。「最初に掻いてから4〜5日目の木が一番、品質の良い漆がとれます」と竹内さん。
掻いたばかりの漆液は、甘いいい香りがする。輸入物の漆液は採取してから時間が経っているためか、こんな香りはしない。溜まった漆液は大きな桶やふね(専用の器)に入れ、天日に当てながら櫂(かい)(はんぼう)を使ってゆっくりとかき混ぜる。水分を取り除いて酸化させるこの作業を「天日黒目精製」と呼ぶ。半日ほどこの作業を続けると、最初乳白色だった生漆が光沢とアメ色をした透明感のある滑らかな漆へと変わっていくのだ。漆器で使われる漆の90~95%は中国や東南アジア方面からの外国産。国産漆は品質は高いが、希少なため驚くほど高価だ。竹内さんは日本の「漆文化」を残すためにも、今後も植樹を続け、後継者育成にも力を入れたいと話す。
長野県駒ヶ根市赤穂13335-4
0265-83-4543
公式ホームページ
本物の“良さ”を体感して欲しいという思いから、木曽漆器のレンタルサービス「かしだしっき」をはじめました。
古くから丈夫で長持ちする日用品として大切に使われてきた木曽漆器。生活の中で実際に触れ、食事を盛り付けることでその魅力がより分かっていただけます。
ご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。
木目の風合いを生かした「スリ漆」でイベントや食事会などで活躍するバラエティ豊かなサイズの器を揃えました。スリ漆:生漆(採取したもとの漆)を使い、薄く塗り重ねる技法
(一財)塩尻・木曽地域地場産業振興センター
〒399-6302 長野県塩尻市大字木曽平沢2272-7
Tel.0264-34-3888Fax.0264-34-2832
担当:百瀬友彦